彼女は今日、事前のスケジュールに従い、派遣業務の登録会兼面談を受けてきた。
時間に余裕を持って自宅を出たのだが、派遣会社の場所がわかりづらく、散々道に迷ってしまったため、時間のギリギリ4分前になんとか到着した。今回の仕事は前職で経験した保険の業務と類似した内容のため、抵抗感が低い。
待遇はかなり妥協しててでも、なんとか採用されたいと彼女は強く思った。普段は着ないスーツも来ていたのと、暖かい陽気のせいで、小走りに走った彼女は派遣会社のロビーに到着したときには若干汗をかいてしまった。
時間から数分過ぎて面接の担当者が現れた。男性だったら嫌だなと彼女は思っていたところ、事前に予想していたより気さくな感じのする小柄な女性だ。年齢は30代前半くらい?マスクごしに見せる穏やかそうな表情を見せる彼女は話やすい雰囲気を醸し出している。彼女は面接担当者に好感を持った。
簡単な挨拶を済ませ面接ルームに案内された。事前にWeb上で必要な情報はすべて入力しているはずなのだが、改めて書類を4枚も記入させられたのと、タイピングテストを受けさせられたのには閉口した。
タイピングテストってタッチタイピングが出来るかどうかを見たいだけなので、彼女の経験からいうと、ほとんど採用可否に影響することはないと思っている。
一通りの手続が済んでようやく本題に突入した。
「源さんがお仕事をする上で一番重要と感じていることは何ですか?」
いきなり本題だ。事前に想定できる質問ではあるが、いざ訊かれると何を回答するか迷う。そもそも派遣の仕事にそんな質問する必要がるのかなと彼女は感じている。
1秒ほど試案したが、彼女は意を決して答えた。「はい、一番重要視しているのは達成感です。一人一人のお客様の問題をその場その場で解決することに達成感や明確な目的意識を重視しています」
面接官は肯きながら彼女の話を熱心に聞いているように見えた。本心はわからないが悪い反応ではないなと彼女は感じた。達成感を重要視しているのは彼女自身の本音ともかなり一致しているので言葉に自然と熱がこもる。
回答としては悪くないが、もう少し具体的なエピソードも交えたほうがよかったなと若干の反省。
次回はこのように答えようかな?
「仕事で重要視しているのは達成感です。即答できない相談の場合など、資料を調べたり周囲に相談し適切な回答を用意する必要があります。あらゆる手段を用いてお客様の課題を最後まで責任を持って対応した後には強い達成感を感じます。このためコンタクトセンターのお仕事が大好きです」
うん、次回はこれでいこうと彼女はちょっと得意な気分になった。
その後、以前の職歴や辞職した理由など定番の質問に、当たり障りのない回答をしながら時間は経過した。
特に彼女が強調したのは、今回応募している職種が経験済みの職種であることだ。かなり一生懸命に伝えたので説得力がある。女性担当者にもそれはかなり伝わった感触がある。
いけるかな?と彼女は思ったが、次の言葉で現実に引き戻された。
「採用の場合のみご連絡します。最短で水曜日、最長で金曜日までの回答となります。・・・」
あー、またかと彼女は思う。どの会社でも使う定型文なので他意がないのは承知している。承知はしているのだが、来るのか来ないのかわからない連絡を待ち続けるの苦痛だ。非常に精神衛生に悪い。いつでも応答できるように常に肌身離さず携帯を持ち歩いた挙句、電話が鳴らなかったときの虚しさは筆舌に尽くしがたい。
不採用の結果に文句はいわないので、せめてメールで知らせてくれればいいのにと思う。
さりとて愚痴をいっても始まらないので彼女は「わかりました」と健気に答える。折角、いい感じで面談が終わりそうなのに、ここで不快感を態度に現わしたら全てがぶち壊しだ。
面接を終えて面接ルームを出るが、女性担当者はエレベータルームまで見送りをしてくれる丁寧さに却って困惑した。エレベータの扉が閉まるまでずーっと頭を下げているのだから、非常に居心地が悪い。ようやく扉が閉まって、面談が終了し気持ちが解放された。
「家に帰るまでが遠足だ」とは使い古されたフレーズだが、面接も同様なのだなと彼女は思った。
明日は10時からWEB面談の予約が一件ある。何をきかれるかはわからないが、なるべく前向きな印象を与えられる回答をしなければと彼女は気を引き締めた。
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